「サラバ!」を読んでみた!

本の話

こんにちは。

今回は西加奈子さんの著書、「サラバ」について書いてみたいと思います。

この作品、有名なので以前から知ってはいたものの、長いことと小説よりも実用書などを好んでいたことから、なかなか読む気になれずにいた本でした。

アメトークの読書芸人で紹介された時に「やはり読んでみよう!」と一度は思い立ったものの、やはり手に取った時の分厚さに圧倒されてしまい、断念してしまっておりました。

当時の自分はそんなに本を読んでいる方ではなかったため、まず読み始めるまでのハードルが大きく立ちはだかっていたのでした。

しかし、ここ数年で読書に時間を割けるようになったことから多くの本を読むようになり、その経験から今ならハードルが下がっているのではないかと思って、改めて手に取ってみました。

案の定、多少長そうかなとは思ったものの、読み始めるには特に抵抗はなくすんなりページをめくり始めました。

1回読み出したら、まあおもしろい!

あれよあれよと読み進めて気がついたら上下巻共に読み終えていました。

結果、普段読む本よりも早いくらいのペースで読み終えることができ、内容にも大満足でした。

そこで、今回は「サラバ」がなぜそんなにもいいペースで読み終えられたのかについて、感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレにはならないようにしますので、まだ読んでいない方も安心して、最後までご一読ください^^

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サラバとは

この記事を読まれている人にとっては、もはや説明不要かと思いますが、一応概要から記載していきたいと思います。

「サラバ!」 西加奈子 著 (2014年 小学館)

それまでに「きいろいゾウ」や「ふくわらい」で世に知られていた西加奈子さんの作家生活10周年記念作品として書き下ろされたのが、この「サラバ!」でした。

本作は第152回直木賞に選ばれています。

簡単なストーリー

主人公 圷歩の生まれた時からの半生を時代ごとに描く物語。

イランで生まれた歩を取り巻く環境は、クセのある姉や自分に忠実な母親、寡黙な父に囲まれた家族環境だった。

日本に帰国した後はしばらく大阪で過ごすも、エジプトに生活の拠点を移すこととなり、そこで後の人生に影響を与える大きな出来事に見舞われる…。

サラバのおもしろさ

上記のように書いても、全く面白そうとは思えないと思います。少なくとも自分ならこれだけでは読んでみたいとは思いません。

では、なぜこの物語が絶賛されるのか。自分なりに解釈してみました。

分析してみた結果、いくつか要因があるように思いましたので、一つずつ解説してみたいと思います。

ここからは「どこからの目線だ!」「何様だ!」となりそうですが、たかが1個人の偏見的意見ですので、間に受けず、「そんなこと思う人もいるんだね」くらいに流していただけるとありがたいです^^;

文章の美しさ

この小説はとても圧倒的に文章が美しくて、すべてのシーンが文章を読むだけで想像できてしまいました。

イランの家の中、矢田のおばちゃん家、エジプトの景色、全てが鮮明に景色をイメージできるような描写がされています。

もちろん丁寧に描かれているからでもありますが、何より文章がとても美しいからかなと感じました。

すっきりきれいな文章ということではなく、美しくて生き生きとしてしている人物描写や、まるで当時のその場に行けば本当にそのものが存在していたかのように思わせられるような表現力が、すごく鮮明に情景をイメージさせてくれました。

それでいて、イメージできる情景が全て嫌なものではない、汚いものではないという美しさがありました。

私は特別多くの本を読んでいる訳ではないので、そんなに比べられる対象が多くはありませんが、今まで読んだ本の中で間違いなくトップレベルの描写力だと思います。

この美しい文章は間違いなく、「サラバ!」を魅力的にしている要因の1つだと思います。

魅力的な登場人物

この小説には多くの登場人物がいます。

それも重要な人物が多く登場して、それぞれに濃いキャラクターが存在します。

いわゆるちょい役のような、幕間に少しだけ登場する印象に残らない人物がほとんどいなくて、登場する人物が皆、濃いです。

濃いというのは言い換えると存在感があるということにもなるかと思います。

つまり、登場人物の1人1人がとても奥行きのある背景を持っていて、その場、その時を生きているように感じます。

そのため、どの人物にも感情移入ができるし、人物像が理解できるのだと思います。

私は通常、感情移入しながら読むのは主人公とその周りにいる物語の中心的な人物だけのことがほとんどなのですが、サラバはほとんど全ての登場人物に感情移入しながら読みました。

これがどういうことかと言うと、登場人物1人1人に心理描写があるからなのかな〜と思いました。

細かいシーンでその人物がどう感じているのか、どう考えているのかが主人公の歩を通じて伝わってくる、みごとな描写がされております。

それも直接的な心理描写は少なく、その時々の情景から人物の心情が伝わってくるような、うまい表現の仕方がされていて、まったく説明くさくなく、それでいて「うんうん」と頷けるほど共感していました。

やっぱりこれもつきつめれば「表現力」となるのでしょうか。なんだか一言で片付けられないようなすごい描写に感じるのは私だけでしょうか。

1人称ならではの読みやすさ

サラバはとにかく読みやすいです。

長い小説を読んでいると、通常文字を追うだけの瞬間が現れ、文章が頭に入ってこないようになることが、多かれ少なかれありました。

単に自分の集中力がなくなっているだけとも言えますが、大体の長編小説においてありうる現象でした。

でもこれが、サラバでは起こりませんでした。

これがなぜなのか、自分でもよくわからないという状況でしたが、何度か読み返してみて1つ気がつきました。

この本は単語、言葉に難しい表現が用いられていないからかなと思いました。

当たり前ですが、小説は文字しかありません。

文字から自分の頭の中で連想して絵を作り出します。その絵を次々に切り替えていき、繋ぎ合わせることで物語を進めていきます。

その一連の流れが本を読むという行為かなと考えました。

そうすると、言葉が難解だと頭の中でうまく絵に切り替わらないことが出てきます。

特に自分の知らない言葉や理解できない熟語を用いられると、今まで繋いできた絵がそこでぷっつりと途絶えてしまって、後にうまく繋がらなくなってしまいます。

これがただ文字を追っているだけの状態ということになります。

ほとんどの本で1度はそんな状態になるのですが、このサラバはそんなことにはならずに最後まで読み繋げることができました。

これがなぜなのかというと、やはり難しい単語が使われることなく、説明が難しい情景も簡単な言葉で表現されていたからだと思いました。

サラバは硬い表現や難しい単語が使われることなく、簡単な表現や馴染みのなる単語のみで難しいことを表現されています。

つまるところ、これも表現力となってしまいそうですね^^;

長い物語の中でも辻褄がちゃんとあっている

サラバは主人公歩が生まれた時から、中年に差し掛かるまでの半生を時系列で丁寧に描かれています。つまり、物語としてはとても長い!ということになります。

小説の上中下全て合わせたページ数は約1,000ページに迫ります。

とにかく長い長い話なのですが、読んでみると意外に長さを感じませんでした。

これは、話の内容が連続ドラマのように、ある程度の長さで話がブロック分けされているからなのかなと思います。

生まれてからの乳児期〜幼少期、物心つく頃〜小学生の時期など、ある程度の話の区切りがあり、その時々でその時代の話は完結するようになっています。

本の中では、主人公歩が年齢に応じてその時その時の出来事や生活周囲の環境を丁寧に描かれています。

最初のブロックの生まれた時の話は、後に家族に聞いたという設定で、自分の記憶がないところからすでに1人称で自分の物語が語られます。そして生活環境が変わる頃までの話がまとめあげられています。

まるでドラマシリーズのように「第1話 歩は生を受けた」という副題を勝手に付けたくなりました。

そして、物語は進んでいき、後半の10話を過ぎた頃に、1話で出てきた人物が言っていたことがまた出てきます。ああ、久しぶりに出てきたな…という感想のまま読んでいくと、それがそのまま物語の軸になってきたりします。

これがまた伏線の回収というようなものではなく、とても自然な流れの中で、違和感なく登場していました。

こんな構造にとても秀逸だな〜と自分でも「どこからの目線だ!」とツッコミを入れたくなるような感想を持ってしまいました。

それにしても、この長さ、ブロック・章の多さの中で、全く違和感なく辻褄の合う流れになっている物語にはとても感動してしまいました。

プロ作家さんの凄さを改めて感じたポイントでした^^;

世界観が理解できる

そして、もしかするとここが最もすごいのではないかと思ったポイントですが、全ての世界観を読者が理解できることでした。

この長い物語の中には、いくつもの世界観が登場します。

場所ではイラン、大阪、エジプトなどの街並みが登場します。人の考え方では、複数の宗教観が語られます。時系列でも複数の年代があり、アナログな時代の、インターネットの普及し始めの頃、スマホが登場した頃などの中を主人公歩は生きていきます。

そんな多種多様な世界観を読者が全て理解できるように作られています。

例えば、エジプトのシーンでは、街並みやその土地特有の文化、生活が、エジプトに行ったことのない人でもイメージできるようになっています。

実際の街並みとマッチしているかは別として、まるで自分が実際にエジプトにいるような想像が出来てしまいます。

後から著者の西加奈子さんの経歴を見てみると、エジプトに住んでいたことがあるようですので、ご自身の体験からリアルに街並みを文化ごと表現されたのだと思いますが、本当によく理解できました。少なくとも理解できたつもりになりました。

これは場所だけではなく、登場人物が信仰する宗教観にも言えました。

自分の全く知らない宗教であったり、架空の宗教が登場してきますが、最初はそれが何を信仰しているのか、何を意味しているのかが分からなくても、最終的には理解できました。

実際に自分が何かを信仰する気になるかということではなく、信仰する人たちが何を感じて何を求めて信仰するようになるのかが、理解できたように思います。

そして、何より読み終えてから、とても納得してしまいました。

ネタバレになるので詳細には触れませんが、最後まで読むと、自分の中の深いところで感じていた人生観のようなものとちょっとリンクするのを感じて、納得感が湧いたのかなと思います。

ちょっと自分に合う自己啓発書を読んだ時のような感覚を覚えました。

なかなかここまで、描かれていることがどういうことなのかを理解しながら読める作品も少ないように感じました。

まとめ

今回は西加奈子さんの「サラバ!」という小説について思ったことを好きなように書いてみました。

特徴としては、

  • 長い!約1,000ページ!
  • でも読みやすい
  • 風景、情景がイメージできる美しい文章
  • 多くの登場人物1人1人に深い背景
  • 難しいことを簡単に表現して描かれている
  • 長い話の中で辻褄が合う
  • 内容を理解しやすい

こんなところでしょうか。

物語としてとてもおもしろくて長くても次へ次へと読み進めてしまいます。

そして読み終わって改めてこの面白さがなんだったのか考えてみたとき、本当にプロの作家さんて凄いな〜とただただ感心してしまうような文章と表現力だったなと思いました。

西加奈子さんの「サラバ!」をもし読んだことがなければ、是非一度手に取って読んでみてください!

見識が広がって、自分の中に1本の軸ができるかもしれません。

今回もどなたかのお役に立てばうれしいです^^

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